有園博子基金 第6期 選考結果

有園博子基金 ARIZONO HIROKO FUND

第6期(2024年度)助成事業一覧

応募状況

応募件数 採択件数
件数 金額 件数 金額
全体
 組織基盤強化コース
 活動応援コース
12件
6件
6件
5,233,000円
4,033,000円
1,200,000円
7件
4件
3件
2,152,000円
1,552,000円
600,000円

採択団体一覧

組織基盤強化コース

団体名 事業名 金額
(特活)フェミニストカウンセリング神戸 法人運営、事業推進のための基盤整備および、人材育成による基盤強化 ¥282,000
(特活)こどもサポートステーション・たねとしずく 法人の運営基盤整備と支援者の研修とケア体制の整備 ¥1,000,000
CocoKaraルームそら 生きづらさを抱えた人々の身体とこころを「つなぐ」 任意団体「Cocokaraルームそら」の法人格取得に向けての組織基盤構築プログラム ¥150,000
(一社)神戸ダルク・ヴィレッジ 子ども時代に虐待を受けた薬物依存症者の回復支援活動の基盤づくり事業 ¥120,000
合計 ¥1,552,000

活動応援コース

団体名 事業名 金額
(特活)性暴力被害者支援センター・ひょうご 「性暴力を予防する性教育」を実施できる人材育成と啓発資材開発 ¥200,000
忘れない 4.25追悼のあかり実行委員会 忘れない 4.25追悼のあかり ¥200,000
(一社)TICC 専門職と虐待を受けた方の“その後”をつなぐ交流会事業 ¥200,000
合計 ¥600,000
組織基盤強化コース+活動応援コース 合計 ¥2,152,000

総評

― お金と成長 ―

選考委員長 岩井圭司

 ここに有園基金による活動助成の第6期の選考結果についてご報告する運びとなった。応募してくださった団体,個人,そしてひょうごコミュニティ財団の運営スタッフの熱意とご尽力に感謝したい。

 さて,いまさら言うまでもなく基金による活動助成は,公益活動を支援するために助成金を支給するという形で行われることが多い。当基金でも,助成金と伴走型の運営支援が2本柱となっている。そこで,本稿ではまず,「お金の話」をさせていただく。この10年あまりの間に,非営利活動や公益活動をめぐるこの国の人々の感覚は大きく変わったからである。少なくとも筆者の場合,それは2010年代前半にやってきた。クラウドファンディング(以下,クラファン)の普及によってである。

 それまでは,非営利活動や公益活動への金銭的支援と言えば,いわゆる”カンパ“であった(カンパしかなかった)。それは講演会等の会場において直接現金を手渡すか,あるいは各種団体の機関誌やチラシが郵送されてくときに同封されている郵便局の振込用紙によって行われた。

 クラファンが画期的であったのは,それがインターネット上で行われる寄附行為であるということと,それ以上に,クラファンが非営利活動への支援と営利活動への支援の間の垣根を取り去ってしまったことにあるように思われる。芸術文化領域の活動やアーティスト個人への支援は,場合によってはそれまでの公益活動への寄付やカンパという文脈には乗りにくいことが少なくなかったものだが,クラファンによってその垣根は随分低くなった。その意味で私はクラファンを歓迎し,今日に至る。

 公益事業であろうが非営利事業であろうが,活動のためにはお金がいる。然るに,お金について語ることは端ないことであるとする風潮が根強かった。クラファンも当初は,「金が必要なら自分で稼げ」「詐欺だ」「銭ゲバだ」等々という無理解なバッシングを受けがちであったが,なんとか今日までに市民権を得ることができている。クラファンは,こういったお金にまつわるタブー性をかなり払拭してくれたーまだまだ残っているとはいうもののー,と言えるのではないだろうか。そしてこのことはやはり,この国の文化と民度の成長につながっているように思う。

 さて,ここでようやく,本基金の今回の選考の話である。クラファンの時代にあって,また金額的にはまだまだ十分とは言えないとはいえ官民問わず多くの活動助成が行われているなかで,当基金による活動助成がどうあるべきかということを考えつつ,選考を行った。つまり,今回も「有園基金だからこそできること」を踏まえて選考が行われた。その選考過程については,助成団体ごとの個別の選評を見ていただきたい。

 今回も,助成の対象となる団体,活動を選考するという作業は,私たち選考委員にとって苦しくもあり,同時に元気と勇気をもらえる体験であった。これまでにも本基金から助成を受けてこられた団体の活動が成熟と発展を見せつつある中で,共に私たち選考委員会にも成長が求められている。

選評:組織基盤強化コース

団体名 :(特活)フェミニストカウンセリング神戸
事業名 :法人運営、事業推進のための基盤整備および、人材育成による基盤強化

 申請団体は、貴重な活動を長年にわたり継続しているだけでなく、非営利組織にとって営利組織よりも難しいとされる「代替わり」を、この「有園基金助成」の基盤整備助成を活用し成し遂げてきている。

 今年度は「受託業務を適切に維持することが喫緊の課題」と申請書に記されているが、その場面においても、高い専門性を持った人財の人件費について折衝を試み、この活動分野全体の底上げにつながることが期待される。

 今回の事業提案では、数年間の基盤整備事業をふりかえり、検証したことで見えてきた課題を分析して3つにまとめ、特に、組織基盤強化のためにスーパービジョンを行い、スーパーバイザーだけでなくスーパーバイジーにも報酬を出すとしており、それが今後のモデルとなる点で委員会内でも高く評価された。

 しかしながら、一般的には(特に行政内などにおいて)フェミニストカウンセリングにおけるスーパーバイザーなどの専門性やその対価についての認識や理解は充分とは言えず、予算書に記された人件費の低さについては委員会でも懸念する声が多かった。「充分な収入を得ながら職業人生を歩むことができる業務」とするためにも、人件費・謝金単価等の設定基準の見直しについて鋭意取り組んでいっていただきたい。そして、本事業によって課題とした3つの事案がそれぞれ有機的に作用して、基盤がさらに強固になっていくことに期待する。
(選考委員:三井ハルコ)


団体名 :(特活)こどもサポートステーション・たねとしずく
事業名 :法人の運営基盤整備と支援者の研修とケア体制の整備

 申請法人は設立から2年目であるが、①アウトリーチ事業、②居場所事業、③支援者支援事業の3事業を柱に、地域において精力的に活動を展開している。これらの事業に取組む中で、特に家庭内のDVや虐待被害等の課題を把握し、予防プログラムという次なる取組みに繋いでいく支援の循環をつくっていこうという姿勢が評価できる。民間団体ならではのきめ細やかな支援事業で、行政や支援者等からのニーズが高く、申請書からは法人代表の活動に対する熱い思いが感じられる。

 本基金への申請は、新たな仲間集めとして人員を確保し、新規スタッフの教育等に取組み、またスタッフのスーパービジョン体制を整備して、今後の活動に向けた組織基盤の強化をめざしていく内容で、他の助成金の獲得しながら総合的に取組み、展開していこうという意気込みが感じられる。一方で、法人の取組みメニューが豊富であるがゆえに、法人メンバーやスタッフの疲弊等が懸念される。活動黎明期だからこそ、法人としてのペースを大切に、着実に取組みを進めていかれることを切に願っている。
(選考委員:仁科あゆ美)


団体名 :CocoKaraルームそら
事業名 :生きづらさを抱えた人々の身体とこころを「つなぐ」 任意団体「Cocokaraルームそら」の法人格取得に向けての組織基盤構築プログラム

 明石を拠点に看護師や臨床心理士の資格を持つ方が集まって活動されている「Cocokaraルームそら」は、幼児期から高齢期まで、幅広い年齢層を支援対象とし、「生きづらさを抱えた人々の身体とこころを」様々な支援機関に「つなぐ」活動に取り組んでこられた。今回は慢性的なマンパワー不足を打開すること、スタッフ体制を強化することが最重要課題であるとのことで申請された。

 昨年度の基盤強化コースの助成で、ホームページの作成や勉強会の実施などに取り組まれた。そうした取り組みの成果もあって、相談の申し込みは毎月入ってきている。相談ニーズを的確に把握されており、相談会は順調なようだが、すべて受け入れができないような状況でもあるとのことだった。NPO法人格取得に向けての具体的なビジョンを固めるために、委員会では、まず人材育成と人材確保で足元を固めていく必要性がある時期ではないかと議論した。その結果、今回は人材育成費のみの採択となった。人材育成、スタッフ体制の強化に向け、助成金そのものの活用だけではなく、他団体との連携や、情報交換を積極的に行っていただくことを期待する。
(選考委員:石田賀奈子)


団体名 :(一社)神戸ダルク・ヴィレッジ
事業名 :子ども時代に虐待を受けた薬物依存症者の回復支援活動の基盤づくり事業

 申請団体は、2016年7月から兵庫県内において薬物等依存症から生じる問題を抱える人々のリハビリ施設として、当事者が中心となって支援活動などを行ってきた団体である。
申請団体は、幼少期に受けた虐待などによるトラウマが依存症(あるいは回復)に大きく影響することがあることに着目し、従来の「マッチョな回復」という在り方を変えて、「弱さを分かち合える場所」とする必要性があると考えられて、トラウマインフォームドケア(以下「TIC」と略す。)の学びと実践に向けた取組みをしておられる。
同一事業について本基金第5期を利用してスタッフ学習会などを進められ、今期は、実践に力を入れて、効果測定・トレーニングツールのブラッシュアップなども視野に入れた取り組みをするため、セミナー、学習会、ワークショップなどの複数の取組みのために基金を申請された。

 薬物等依存症に対しては未だ社会的に批判の目が向けられやすい状況ではあるが、その中で、トラウマ体験を持つ当事者が相当する存在することを前提として(利用者のみならずスタッフも含めた)安全な回復の場所づくりを目指されていることには、大きな意義があるものと評価する。加え、今期も引き続き研究者からのスーパーバイズを受けた上で取組みを続けられるということであり、より一層の専門的支援の充実を期待する。

 最も、今期は、第5期からの事業の発展させた取組みでもあること、また、高度に繊細かつ慎重を要する内容を含む取り組みであることが察せられることから、実際の支援の現場における確実かつ安全な定着など必要性を考慮し、申請内容の一部である「幼少期の話のグループワーク」についてのみ採択することとした。
(選考委員:西部智子)


※各団体の選評は組織基盤強化コースのみ執筆しています。