有園博子基金 第4期 助成実績

有園博子基金 ARIZONO HIROKO FUND

第4期(2022年度)助成事業一覧

有園基金第4期採択団体一覧.pdf(PDF:228KB)
有園基金第4期総評・選評.pdf(PDF:423KB)

継続団体(いずれも3年継続)

団体名 事業名 金額
1 (認定特活)女性と子ども支援センターウィメンズネット・こうべ DV被害を受けた女性と子どもの切れ目のない中長期支援体制の構築 ¥1,997,000
2 (特活)性暴力被害者支援センター・ひょうご 性暴力被害相談のアクセス改善 ¥1,579,000
3 (社福)神戸いのちの電話 「神戸いのちの電話」のボランティア電話相談員の拡大をはかるための広報、養成、サポート体制の充実 ¥1,000,000
合計 ¥4,576,000

組織基盤強化コース

団体名 事業名 金額
1 (特活)フェミニストカウンセリング神戸 法人運営、事業推進のための基盤強化および、人材育成による基盤強化 ¥432,000
2 (特活)男女共同参画ネット尼崎 法人の基盤強化のための課題検討と人材育成 ¥730,000
3 面会交流センターピロティ 子どもの利益となる面会交流等の支援事業 ¥440,000
4 NGO神戸外国人救援ネット 在住外国人のための相談支援活動の総合的組織基盤強化事業 ¥1,000,000
合計 ¥2,602,000

活動応援コース

団体名 事業名 金額
1 女性と子どもの健康と安全を考える看護職の会 女性と子どもの健康と安全をテーマにした勉強会や看護研究活動 ¥198,000
2 坪倉浩美 氏 養育者の幼少期の被虐待経験が子どもの養育に及ぼす影響 ¥100,000
3 わすれない4.25追悼のあかり実行委員会 わすれない 4.25追悼のあかり ¥200,000
合計 ¥498,000
継続団体+組織基盤強化コース+活動応援コース 合計 ¥7,676,000

総評

選考委員長 岩井圭司

 有園博子さん(兵庫教育大学教授、臨床心理士。2017年逝去)のご遺志とご遺産を受けて設立された本基金は,兵庫県内でドメスティック・バイオレンス(DV),虐待,性暴力の被害者,そしてJR福知山線脱線事故の御遺族という4つの領域での支援活動または研究に助成を行うというユニークな基金である。このように“テーマ限定型”である本基金では,テーマに添って有意義な活動をしている団体を支援するという視点に加え,そういった活動を育成していく――やや口幅ったい言い方となり恐縮だが――ということに重点を置いている。

 有園さんはこの「4領域」を生前自ら実践しまた研究された訳であるが,その内のDV,虐待,性暴力被害者支援は時代と地域(国境さえも)に限定されない,人類に普遍的なテーマであると言えよう。一方で,2001年に宝塚市で起こったJR福知山線脱線事故は,数ある事故災害の一つに過ぎない。しかし,そのローカルで一回性の事故災害の被害者・遺族支援の個々の経験から,被害者支援全般に関わる方法論を構築していくことこそが求められるように思われる。“具体”から“普遍”へ,である。

 このように,本基金を最も特徴づけているといえるJR福知山線脱線事故遺族支援であるが,今回第4期にしてはじめて脱線事故遺族支援をテーマとする応募があった。筆者としては,これでようやく最後のピースが埋まって有園基金が“完成”したような感慨を覚えている。

 筆者の感慨から前置きが長くなってしまった。以下が本来の意味での総評である。

 活動助成の採択のための審査委員会は,コロナ禍の影響を考慮してリモート会議システムを用いて2022年の3月6日と18日の両日に開催された。そして審議の結果,組織基盤強化コース4団体,継続3団体,活動応援コース3団体の10団体を採択した。残念ながら不採択となった3団体にも審議結果をお伝えしたところ,いずれの団体からも今後に向けての前向きなお返事がいただけたことを付記しておく。

 採択のための審査は申請書類を中心に行われる。その申請書類の内容であるが,申請者のこれまでの活動実績や今後の活動計画については概ね丁寧に記載されているものの,「本基金からの助成を受けることで活動がさらに飛躍的に展開していく」という“目論見”の記述が不十分なものが今回も見られた。基金としては,既に有意義な活動をしている団体よりも,本基金の助成によって今後の活動の大幅な充実が見込める団体をこそ助成したいのである。その方向に向けてもっと“風呂敷を広げて”いただきたいところである。

 しかし,だからといって申請書の文面のみで審査を行ったわけではない。事務局のスタッフが予め各申請団体にヒアリングを行って申請団体の“真意”を汲み取り,その結果は審査に大いに活かされた。

 末筆ながら、応募されたすべての団体の熱意と事務局スタッフのご尽力に感謝する。

組織基盤コース

団体名 :(特活)フェミニストカウンセリング神戸
事業名 :法人運営、事業推進のための基盤整備および、人材育成による基盤強化

 申請団体は、組織基盤強化の課題を洗い出し、分析され、スタッフ間で共有しながら取り組んでこられた。法人の運営では定期的なミーティングの開催と外部アドバイザーの伴走支援によりワークショップ等を重ねて来られ、今期も申請の通りスタッフ間の関係づくりやエンパワメント等に引き続き取り組んでいただきたい。女性の地位向上をめざして活動する団体において、活動理念の継承や後進の育成が共通の課題となっているが、申請団体は着実に進み始めておられる。今後、同様の課題を抱える関係団体・グループのモデルケースとなっていかれることを期待する。
 地域におけるDVや虐待問題をはじめ、困難を抱える女性のための包括的な支援が今こそ求められており、地域の行政や多様な団体・機関・支援者の連携・ネットワークが一層必要とされている。申請団体のスタッフのカウンセリング技術と団体の活動力の向上に期待するとともに、更に地域のさまざまな社会資源と連携・ネットワークされていくことで、兵庫県内の女性支援体制の整備、向上につながっていくことを願っている。(選考委員:仁科あゆ美)

団体名 :(特活)男女共同参画ネット尼崎
事業名 :法人の基盤強化のための課題検討と人材育成

 申請されたNPO法人は、男女共同参画社会の実現に向けて意識や課題を共有する市民が活動を立ち上げ、その後も長く実績を築いてこられた団体である。指定管理事業においては制度が導入された当初から取り組み、国内でも有数の実績を持っておられる。
 一方で、NPO法人の主たる事業が、人件費・法定福利費なども担保される公的施設の指定管理事業となる場合、法人本体事業との共存や、法人本体スタッフと指定管理事業スタッフとの間での意識共有やそれぞれの人財育成などに課題を抱えるケースも少なくない。
 指定管理事業のシフト制での多忙な日常業務のなかで、法人本体事業への意識喚起を促すことは容易ではないが、当該団体は2021年度にその課題に真正面から取り組まれ、組織分析・診断で問題・課題を構造化することで一定の成果を得られたようである。
 2022年度はその手応えを以って、「アドバイザー伴走支援」の活用や外部有識者の知恵も得て、より具体的な改善策を見出し、同様の悩みを抱えている組織へのリーディングモデルとなるべく効果的な事業となることに期待したい。(選考委員:三井ハルコ)

団体名 :面会交流支援センターピロティ
事業名 :子どもの利益となる面会交流等の支援事業

 2018年5月に設立された面会交流等の支援団体で、団体設立の当初から当基金を利用され、第1期から第3期まで、県内の母子生活支援施設等の実態調査、面会交流実施に伴う課題の研究・整理、他の類似同種団体の視察・交流などの準備を行って地固めをされ、昨年度、数は少ないものの実際のケースを取扱い、経験を積み上げられた。
 子どもが別居親と安全に面会交流できることは、子どもの健やかな心身の育成の大きな要素になりえ、子どもの心理面接が実施できる申請団体が申請にかかる事業を実施することは、社会的に重要な意義がある。
 今期は、これまでの積み重ねの上に、継続的支援体制確立のための支援・事務手続き効率化などの基盤強化、支援員のスキルアップ、Webサイトを用いた周知手段の検討などに取り組まれるということであり、予定される取扱い事例数などの面からも申請団体の人的・物的資源などに配慮された実現可能な事業計画が示され、確実で有意義な事業展開が期待される。
 事業実施にあたっては、個別ケースへの対応・検証を丁寧に行うとともに、心理職団体や問題意識を共有する関連団体、地域の団体・機関との連携を意識し、子どもの視点に立った面会交流の実現に向けた一層の取組みを期待する。(選考委員:西部智子)

団体名 :NGO神戸外国人救援ネット
事業名 :在住外国人のための相談支援活動の総合的組織基盤強化事業

 日本で生活する外国人が直面する課題は、在留資格、家族関係、社会保障、医療、住宅、労働、教育、刑事事件など多岐にわたる。神戸外国人救援ネットは、1995年の阪神淡路大震災をきっかけに活動を始め、来談者の母語による相談対応を大切にしながら、弁護士や民間団体との連携のもと課題解決に取り組んできた団体である。
 近年、DVに関する相談は増加しており、さらにその内容も複雑化、深刻化している。外国人住民であれば、たとえば在留資格に関する相談として寄せられたものが実はDVが背景にあったという案件など、ホットラインでの相談内容の統計では現れていないもののDVへの対応を行っているケースも相当あるとのことである。実際の支援においては大変高度なスキルが求められることは想像に難くない。今回、総合的な基盤整備の必要があるとのことで、OJTによる支援スタッフの育成とリーフレットの作成、NPO法人化に伴う事務・会計スタッフ確保等の環境整備を基盤強化の内容として申請された。OJTの内容も非常に複雑で多岐にわたる業務をこなさなければならない高度な専門性が求められていることがうかがえる。外国人支援をめぐる研修を通して同団体らしい専門性をさらに高めていかれるとともに、DV被害者をめぐる支援においても専門性を高めていくことを期待したい。また、団体の持つ専門性を活用した支援者育成のためのOJTプログラムを内部の専門性向上にとどめず、支援スキルを普及させていくような取り組みに発展していくことも期待したい。(選考委員:石田賀奈子)

活動応援コース

団体名 :女性と子どもの健康と安全を考える看護職の会
事業名 :女性と子どもの健康と安全をテーマにした勉強会や看護研究活動

 DV、児童虐待の相談対応件数は増加傾向を続けている。子どもや女性の安心・安全をめぐる状況は極めて厳しく、福祉・保健・教育・看護などといった対人援助の各領域でこうした問題への対応は喫緊の課題である。
「女性と子どもの健康と安全を考える看護職の会」は、甲南女子大学女性健康看護学分野の友田尋子教授の大学院ゼミでともに研究してきたメンバーや、小児看護学や母性看護学の教育に携わるメンバーで構成されており、それぞれに一定の活動実績もある団体である。
 単なる「仲間内」の研究者・実践家の交流の促進ということでは,新規性も今後の発展への期待性もやや乏しいと言わざるを得ないだろう。しかし、各自の研究課題の進捗状況を報告したり、事例検討を行うための定期的な研究会を継続していく活動の到達点として実践能力の向上に加えて「女性と子どもの健康と安全に携わる看護職のネットワークづくり」を目指しておられるなど、今後の活動の広がりおよび研究会としての発展の可能性が評価された。
 研究においては、今後科学研究費等の競争的研究資金の獲得等、研究活動のさらなる発展が期待される。
 また、実践への貢献としては有園基金助成団体とつながることで、兵庫県内の女性・子ども支援体制の更なるネットワーク構築、活動発展への貢献を期待したい。たとえば、先行する類似団体や、各所の男女共同参画センターなどとの連携と連携し、女性や子どもを対象とした支援者同士のネットワークへの参画を期待している。(選考委員:石田賀奈子)

氏名  :坪倉 浩美
事業名 :養育者の幼少期の被虐待経験が子どもの養育に及ぼす影響

 申請事業内容は、被虐待経験を持ちながら虐待の連鎖を断ち切った親たちがどのようにしてそれを可能にしたのか、逆境体験を乗り越えていくための必要な要素を検討することをテーマとした調査研究事業である。
 虐待経験を持ちながら自らも虐待をしてしまう、いわゆる「虐待の連鎖」の構造的な問題について、世代間にわたる視野をもった予防的支援方法が構築されることは、社会的に重要な意義を持つ。
 申請者は、助産師として長年の実務経験も有し、大学講師として母性看護学・助産学を教える学識経験者であり、すでに、事業名のテーマについて研究調査を実施しているところ、当基金を用いて、調査対象事例数を拡大し、より抽象化・一般化された支援構築に向けた考察を行うことを目的としており、示された研究計画も実現可能なものと考える。
 また、申請者は、本基金を利用する中で、子育て支援者同士の情報共有、ネットワーク作りをすることを視野にいれていると述べており、より高い評価となった。
調査研究の成果はもちろんであるが、その過程における人的・物的な交流によっても知見の深まり・広がりが社会に還元されることを期待する。(選考委員:西部智子)

団体名 :わすれない4・25追悼のあかり実行委員会
事業名 :わすれない4・25追悼のあかり

 申請団体は、2005年に起きたJR福知山線事故の遺族を中心に構成されている。突然の未曾有の事故で大切な家族を失うなか、新たに活動を始めることは容易なことではない。そのような状況下、様々な変遷を経て、事故から10年の2015年4月25日の前夜に「4・25追悼のあかり」の取り組みを始められた。
 その後も「4・25追悼のあかり」は継続されていたが、事故から17年が経ち、コロナ禍で事故の風化がますます加速する昨今、再発防止を願って今回初めて「有園博子基金」助成にチャレンジされたことは、活動として大きな一歩となるのではないか。
今後は、事故の再発防止・風化防止への理解の裾野を広げることを念頭に、より多くの市民の協力を得ながら、他組織ともネットワーキングしつつ、「事故の社会化」を図った活動として継続していくことに期待したい。(選考委員:三井ハルコ)