有園博子基金 第1期 助成実績

有園博子基金 ARIZONO HIROKO FUND

第1期(2019年度)助成事業一覧

有園基金第1期採択団体一覧.pdf(PDF:96KB)
有園基金第1期総評・選評.pdf(PDF:249KB)

採択団体

団体名 事業名 金額
1 (社福)神戸いのちの電話 「神戸いのちの電話」の相談員を増やし、24時間365日化を実現するための広報活動 ¥500,000
2 (認定特活)女性と子ども支援センター ウィメンズネット・こうべ DV被害助成と子どもの心身回復支援に向けて、人材育成事業 ¥466,000
3 (一社)神戸ダルクヴィレッジ 虐待された子供と薬物依存症者の関係性の研究及びその回復支援活動の基盤づくり ¥270,000
4 (特活)Giving Tree フォスターペアレント支援事業 ¥500,000
5 (特活)性暴力被害者支援センター・ひょうご 支援員を支援する~むりなくボランティア活動を継続できるためのサポート体制づくり ¥500,000
6 NGO神戸外国人救援ネット 外国人DV被害者助成のための相談活動と自立支援、および支援のための団体基盤強化 ¥500,000
7 (特活)フェミニストカウンセリング神戸 法人の世代交代における組織の事業見直しによる基盤強化、事務業務の引継ぎ、および新規スタッフの獲得と既存スタッフの定着に向けた取り組み ¥500,000
8 面会交流支援センター ピロティ 子どもの面会交流支援センター ピロティ利益となる面会交流などの支援事業 ¥500,000
9 (特活)男女共同参画ネット尼崎 デートDV予防啓発支援員養成事業 ¥500,000
 合計 ¥4,236,000

選評

選考委員長総評

選考委員長 岩井圭司

 本基金は、2017年に逝去された有園博子氏(兵庫教育大学教授、臨床心理士)のご遺志を受けて設立された。兵庫県内でDV、虐待、性暴力の被害者、そしてJR福知山線脱線事故の御遺族を支援する活動または研究を助成対象として、今回第1期の募集を行ったところ、締切日までに11団体からの応募があった。

 多年にわたり対象領域で継続的に活動を展開している“老舗”団体、最近になって新たに活動を立ち上げたフレッシュな団体、全国展開している団体の兵庫県組織(支部)など多彩な団体の応募があり、また、その方法論も様々であった。兵庫県における被害者支援の拡がりと深まり、まさに百花斉放ぶりが実感された。それゆえ選考過程は、選考委員にとっても非常に勉強になる、誠に愉快なものとなったことをここに記し、感謝する。

 さて、選考過程について説明しておこう。まず、書類審査において各選考委員が選考基準に従って個別に評価を行った。その結果を集計した上で、2019年3月8日(月)14時から17時まで選考委員全員によるヒアリング(各団体15分)を3時間にわたって実施した。そのあと、18時半まで選考審議を行い、採択・不採択を決定した。

 選考にあたっては本基金の事業趣旨に添って審議がなされたことは言うまでもない。つまり、すぐれた活動をしている団体であるということよりも(もちろんそのことも重要だが)、本基金が助成するにふさわしい活動を展開することが期待される団体であるかどうかということを中心に審査を行った。また、本基金の助成によって活動が顕著に充実ないし拡大するかどうか、ということについても重視した。実際に選考を行ってみると、たとえば、申請書類を見ただけでは、自己資金の不足を補う目的で応募してきただけにしか見えなかった団体が、実際にヒアリングしてみると、本基金の助成によって活動が確実に充実するように認められたケースもあった。今後は応募団体にはより一層応募意図の明確な申請書を作成するようにお願いするとともに、選考委員の“見る目”も磨いていかねばならないことを痛感した。

 審議の結果、9団体(うち8団体に満額、1団体に減額)への助成を決定した。各団体への評価については、以下に個別の評価を掲げるので参照されたい。

 本基金は今後も、兵庫県内で様々な被害者支援に関わる活動を続けていく。選考委員としても、応募団体の熱意と行動力に応えていけるよう、引き続き努力したい。

採択団体選評 ※選考委員からの選評です

団体名 :NGO神戸外国人救援ネット
事業名 :外国人DV被害者助成のための相談活動と自立支援、および支援のための団体基盤強化

 阪神淡路大震災を契機に始められた活動は、外国籍の市民が増加している現在、さらなる事業の拡大が求められている。近年日本人男性と結婚した外国籍女性からのDV被害に関する相談が増加していることから、「外国人DV被害女性のための相談活動と自立支援、および支援のための団体基盤強化」事業を申請され採択された。
 外国人女性の相談活動を有効に展開するためにフェイスブックやツイッターなどSNSやホームページの多言語化は必須で、外国籍の市民に活動を広報していく取り組みが必要である。寄付金を募る活動を通して、多くの市民から団体の存在意義を認められたという自負を持ち、より積極的に活動を打ち出していただきたい。
また自立支援のために外国籍のDV被害女性に通訳として活躍の場を広げていく試みは画期的で、外国籍の市民と共存できる社会づくりのためにも有効であると考えられる。団体基盤強化のためホームページとパンフレットのリニューアルを挙げられているが、一時的な基盤強化に止まらず、経費が安価な継続した取り組みにも広げていただきたい。
 この事業を契機として、民間頼みではなく行政もともに取り組むべき事業であることを積極的に働きかけ、行政との協働事業になることを期待している。

団体名 :特定非営利活動法人Giving Tree
事業名 :フォスターペアレント支援事業

 特定非営利活動法人Giving Tree は、社会的養護にある児童、出身者が安心して地域社会で暮らすことができるような社会の実現を目的として、社会福祉士・保育士・心理士・大学研究機関・企業等様々な分野の専門職が共に、社会的養護にある児童および出身者、里親への支援を行っている。
 今回の申請にかかる事業内容は、里子特有の“自分のルーツ”“真実告知”、および養育の難しさという各課題への支援として、ライフストーリーワークの手法を用いた「生い立ちDiary」「里親紹介B00K」の制作及びペアレントトレーニング研修を実施するというものであり、ニーズに応えるものですでに垂水区での実績もあり、成果が期待できる。さらに、今回の助成では、神戸市に対象地域を拡大し、加えて、発達特性や愛着障がいをもつ児童・被虐待児の養育者が利用できるよう教材のリニューアルを行い、事業内容を充実されていかれる点も評価した。
 支援内容の社会的必要性・他専門連携の強みなどを生かし、今後、支援内容の充実・地域の拡大などのため、行政・公的機関とのさらなる連携強化も考えてもらいたい。

団体名 :社会福祉法人 神戸いのちの電話
事業名 :「神戸いのちの電話」の相談員を増やし、24時間365日化を実現するための広報活動

 「神戸いのちの電話」は1981年に始まり、阪神淡路大震災を乗り越え、2002年に社会福祉法人として認可された。孤独の中にあり時には精神的危機に直面し、自死を考え、助けと励ましを求めている一人ひとりと、電話を通して対話し、生きる勇気を持てるように支えていく活動で、ボランティアの相談員により運営されている。相談者に対し傾聴の姿勢で寄り添い、いつでも誰でもどこからでも無料で相談できる「いのちの電話」の存在とその活動の意義は大きい。現在は、24時間365日化の実現に向けて相談員の増加をめざしているが、相談員保護の側面から匿名性を重視、公表の制約や広報活動の限界があるうえに、相談開始当時と社会状況が変わり相談員の確保が難しいことが課題となっている。
 このたび「有園博子基金」の助成金により専属スタッフを配置、今まで活発にできていなかった広報活動に注力するとともに、アンケート調査で活動の振り返りを行い、次の具体策につなげるサイクルを継続、団体の基盤を整備・強化されていくことを期待する。また今後は同様の分野で活動している団体等との連携等も視野に入れるなどされ、相談者の悩みへの寄り添いとともに相談者自身の生きる力や問題に取組む力を育て支える相談体制づくりに一層尽力され、電話相談の24時間365日化を実現されることを切に願っている。

団体名 :一般社団法人 神戸ダルクヴィレッジ
事業名 :虐待された子供と薬物依存症者の関係性の研究及びその回復支援活動の基盤づくり

 申請団体は薬物、アルコール、ギャンブルなど様々な依存症者のためのリハビリ施設で、特に薬物依存の方の回復支援に力を入れている。
 今回の申請は、薬物依存からの回復のため、当事者がおかれた養育環境に着目し、生きづらさの根底にあるものの解明と回復に向けた支援のあり方を検討しようとするものである。ヒヤリングの中でも、虐待の男性被害者は、特に被害者としての自分を語ることができないこと、そのため薬物依存症者としての側面にのみ、本人も支援者も焦点を当てがちであるという問題意識についてお話しいただいた。実践における問題意識から出発した事業計画で、その重要性についても十分理解でき、当事者団体は、当事者にしかわからない側面にも目を向けられるという強みがおありであることが伝わってきた。
 そのうえで、今回、選考委員会が減額採択と判断した理由は以下の通りである。全国11か所のダルクに出向き、インタビューを実施し、アンケートを行い、支援プログラムを構築するという計画はあまりに性急であると考える。本体事業も軌道に乗り始めたところであり、通常業務を行いながらの事業の実施は無理があると思われる。
 無理のない調査を実施され、その結果を丁寧に反映された支援プログラムの構築を期待している。なお、協力者の権利を守るためにも、調査の実施に当たっては、倫理審査を経て実施されるようお願いする。

団体名 :認定特定非営利活動法人 女性と子ども支援センター ウィメンズネット・こうべ
事業名 :DV被害女性と子どもの心身の回復支援に向けて、人材育成事業

 ウィメンズネット・こうべは、生きづらさを抱えた女性とその子どもたちなどが、安心して自分らしく生きてゆける社会の実現を目的として、DV被害女性の相談など様々な活動をしている。暴力・虐待の被害者支援は困難を伴うものであったと想像できるが、精力的に活動を続けてこられている。
 しかし、活動年月が長い団体には共通の課題のようであるが、スタッフの高齢化などの問題を抱え、加えて、特に昨今、困難ケースが増加し、スタッフの更なるスキルアップの必要性という課題が生じている。今回の申請は、これらの課題を見据え、これを乗り越えるための人材育成をし、団体基盤の強化をすることを目的になされた。
 申請にかかる事業内容は、母親に焦点をあてた従来型の支援から、さらに進めて「母子」に着目し、母子いずれの回復も支援できるスキル・ノウハウの習得のため、心理・身体両面からのアプローチについて専門家を招聘して研修を実施するというものである。スキルアップはもとより、スタッフ自身のケアにも応用できるため、申請の目的との関係でも実効的であると評価した。もっとも、研修実施の労力のためスタッフが疲弊してしまうことのないよう、事業実施にあたってはご配慮されたい。

団体名 :特定非営利活動法人 性暴力被害者支援センター・ひょうご
事業名 :支援員を支援する~無理なくボランティア活動を継続できるためのサポート体制づくり

 特定非営利活動法人性暴力被害者支援センター・ひょうごは、性暴力被害にあった人に寄り添い、本人の意思とペースを尊重しつつ、心理的支援、医療支援、法的支援、生活支援など必要な支援につなげ、これまでばらばらに機能していた性暴力被害者への行政・民間の支援を有機的に結びつける役割を担っている。2013年4月に「性暴力被害者支援センター・神戸」として開設、2014年移転に伴い現在の名称に変更、2017年4月に法人化した。
 継続性のある資金的補助がない中で被害者支援のために力を尽くされ、医療関係団体や警察等と連携し、急性期の被害者支援のためのネットワークを形成、病院拠点型ワンストップ支援センターの役割を果たしている。また相談から見えた課題を社会に発信、啓発活動を行い、支援にアクセスしにくい障がいを持つ人への啓発や対応等にも先駆的に取組んでこられた実績がある。
息長く活動していくためには、センターの運営を支える支援員の力が必要である。助成金を活用され、センターの業務を担うスタッフが自身の病気や育児・介護等により活動を中断させることがないよう、環境整備に取組んでいかれることを期待する。
 性暴力被害者支援において官民の連携は不可欠である。今後も貴団体のアドボケート活動に期待するとともに、より良い支援のための支援者のケアと活動の環境づくりに努められ、引き続き社会への発信と政策提言等の活動をしていかれることを願っている。

団体名 :特定非営利活動法人 男女共同参画ネット尼崎
事業名 :デートDV予防啓発支援員養成事業

 「特定非営利活動法人男女共同参画ネット尼崎」は、この分野にあって実績をもって長く活動している団体であり、「尼崎市女性センター・トレピエ」においては、日本におけるNPOが関わる指定管理事業の草分けとしても、長年、運営管理に取り組んできている。
 今回の助成事業は、その継続的な事業運営から見えてきた喫緊の課題に対しての提案であり、デートDVについての予防啓発と同時に支援員養成をする必要性・重要性は充分に理解できる。
 助成金の担当者連絡先が「尼崎市女性センター・トレピエ」となっていたため、本体のNPO法人事業と受託している指定管理事業との棲み分けについて、選定委員内でも一部、疑義があったが、ヒアリングでその棲み分けも的確にけじめをつけられていることが分かり採択となった。
 デートDV予防啓発支援員の養成講座の実施やその後のフォローアップで、県内外で活躍できる講師を育成したのちは、ネットワークづくりにおいて、貴団体が「中間支援」的役割を果たし、教育委員会との連携強化による受皿づくりなどにも注力されることを期待する。
 また、申請内容では貴団体は講師養成後のコーディネートにおいて料金を取らないとあるが、この助成事業実施によるメリットが貴団体にも残るような仕組みを考え、「男女共同参画ネット尼崎」の自主事業として収益性が上がり組織基盤強化にもつながる事業となることを願っている。

団体名 :特定非営利活動法人 フェミニストカウンセリング神戸
事業名 :法人の世代交代における組織の事業見直しによる基盤強化、事務業務の引継ぎ、および新規スタッフの獲得と既存スタッフの定着に向けた取り組み

 申請団体は、「誰もが安全安心に暮らせる男女共同参画社会の実現」をめざして、20年にわたって活動を展開してこられた団体。フェミニストカウンセリングの視点に基づく相談業務はニーズも高く、社会的意義は大きいものの、スタッフの精神的負担も疲労も大きく、人材確保が大きな課題となっている。
 今回の申請では、外部アドバイザーを導入しての法人の基盤強化や、新規スタッフへの事務の引き継ぎに加え、電話相談ボランティアの有償化や託児料の補助を通して、新規スタッフの獲得と現在のスタッフの活動環境の改善を図ろうと計画している。それによってスタッフの年齢層が下がること、現在のスタッフが長年蓄積してこられた実践のノウハウが若い世代の支援者に引き継がれていくことが期待できると考えている。
 支援者養成問題は申請団体に限らず、全国で様々な団体が直面している問題でもあり、それを乗り越えていかれることが一つの先駆的事例になりうると期待できる。選考委員会では大きな期待を込めて満額採択となった。団体で蓄積してこられた知見を、団体内での引き継ぎにとどめるのではなく、マニュアルや事例集などとして汎用性の高いリーフレットとして販売されるなど、これまでの知見の蓄積をいかに社会に発信していかれるかについてもぜひ前向きな検討を期待する。

団体名 :面会交流支援センター ピロティ
事業名 :子どもの利益となる面会交流などの支援事業

 DVの関係から逃れた後、同居親(多くは母親)と子どもの健全な関係を再構築するためには、子どもと別居親(多くは父親)との面会交流が安全安心に実施されることが大きな要素になると思われる。同居親との健全な関係を保ち、子どもの利益となる面会交流を実施することが子どもの健やかな心身の育成に欠かせないと面会交流支援センターピロティを設立され、今回「子どもの利益となる面会交流等の支援事業」を申請され採択された。
 面会交流に際して、同居親と子どもにアセスメントを実施し、子どもにとって利益になる面会交流を最優先に考慮する立場をとられていることは、子どもの健全育成、児童福祉の観点からも評価される。子どもにとって別居親に対する判定は、同居親の心身反応によるところが大きい。それを立場の異なる複数の専門家がそれぞれの視点で総合的にみることで、子どもだけでなく、同居親にとっても客観的な意見を取り入れる好機になればと考える。
 面会交流という行政の手が届きにくい領域への支援は今後ますますニーズが高まると同時に、慎重に実施される必要がある。団体立ち上げ間もないため、法人格もなく、収支予算書も裏付けが乏しいので、まずは団体の基盤整備を中心に進めていただきたい。
 事業の成果はしっかりと倫理委員会を通して学会だけでなく、広く社会に発信し、子どもの利益となる面会交流の実施の必要性を各方面に情報発信していただきたい。DV被害母子を地域で見守る重要性が認識され、その仕組みづくりの一翼を担っていく事業であると期待している。