インタビュー

NPO法人 播磨オレンジパートナー インタビュー

つながる・楽しむ Let’s 縁 joy! with コロナ

~地域社会で、初期の認知症の方と一緒に歩んでいく~

 

 

代表理事の丸尾とし子さんに、お話をうかがいました。

播磨オレンジパートナーは、どのような団体ですか

 認知症の初期の方への支援や、周辺環境の改善を行う団体として2015年に設立しました。
 現在は介護保険の財源の問題で、要介護度の高い方が優先的に保険の給付が受けられるようになっています。医療の進歩で認知症の早期発見が可能になった一方で、認知症の程度の軽い方々へのサービスが不足しているという問題も出ています。

 認知症と診断されたら、「人生もう終わりだ」と思ってしまう方が多いかもしれません。
 そうではなくて、いまの時間を生きがいを持って有意義に暮らしていただきたい。もしも心豊かに暮らすことが認知症の進行を緩やかにさせるという仮説を立証することができれば、将来認知症になるかもしれない私たちの希望にもつながる、そう考えて活動しています。

これまで、どのような活動をされてきたのでしょう

 活動の中心は、認知症と診断を受けたご本人への「生きがい支援」や「生きがいづくり支援」です。週に1回、当事者だけの集いを行い、一緒に計画を立てながら創作活動や料理などのアクティビティをしたり、外出したりといろいろな活動をしています。
 また、そのような支援をするためには人が必要ですので、勉強会などを開いて人材の育成もしています。

 国は「認知症サポーター」の養成を認知症の施策に入れていますが、実際は養成講座を受講しても地域での活動につながらないことが多いんです。
 そこで認知症サポーターと軽度の当事者の方を上手くマッチングできないか、働きたい、誰かの役に立ちたいと思っている当事者の方と興味関心の合う認知症サポーターは、良い友達になれるのではないかと考え、「オレンジ人材センター」という有償ボランティアのグループをつくって地域の中で活動を進めています。

 認知症と聞くと、徘徊するとか、食べられないものを食べるといった、マイナスのイメージを持っている人もいると思うのですが、それはかなり進行してから出る行為ですし、認知症になれば全ての人に出てくる中核の症状ではありません。
 それらは「行動心理症状」というもので、周囲の適切な関わり方によって軽減できるものなんです。ご本人の生活の中で、いかに不安や恐怖を感じず、穏やかに過ごせる環境を周囲の人たちが作っていけるかが重要です。

 このような認知症に対する誤解を払拭したいということもあって、当事者と地域の皆さんとの接点を作るために「RUN伴」「龍野城下町オレンジキャンペーン」などの「認知症にやさしいまちづくり」の活動も行っています。

助成金はどのような活動に使いましたか

 コロナ禍の前から地域の方々に提供していた「つながる・楽しむ Let’s 縁 joy!」という複数のアクティビティを、それぞれの講師にコロナ禍でも出来る新しい内容に変えていただいて行いました。

 例えば「歌声サロン」の代わりに考えられた「歌声ラジオ」は、季節にあった曲の伴奏や音楽体操などを音楽療法士がラジオ番組風にCDに録音して受講生に郵送し、受講生には葉書で曲をリクエストしたりエピソードを書いたりすることを課題とし、それを次のCDの中で紹介するというプログラムです。

 他にも「脳アート」という絵画作品のやりとり、「筆あそび」という書字のやり取り、「私のものがたり」という安否確認を兼ねた電話インタビューなどもあります。
 また「レクリビティ」(「レクリエーション」と「アクティビティ」を混ぜた造語)という脳を活性化するためのオリジナル活動は人数を制限して行いました。

 デイサービス等では、そこで働く職員がいろいろなアクティビティを提供することが多いですが、にわか仕込みのものも少なくありません。
 人生経験が豊富な先輩方には本物を提供したいと思っていたので、私たちの提供するアクティビティは、その道の先生方に協力していただいます。

コロナ禍で、支援している認知症の方に何か影響がありましたか

 緩やかだった認知症の進行が急に進行したように見えます。これまでもゆっくり進行はしていたのですが、集う活動を1か月半完全に止めた前回の緊急事態宣言の期間で、極端に出来なくなることが増えた方が多い印象を持っています。
 人と会うことは、会うための準備も含めていろいろな機能を使います。コロナがきっかけで、周りとの交流が途絶えたり、思考が止まってしまったりしたことが原因ではないかと感じます。

 例えばある方は、緊急事態宣言中は夫婦お二人だけの時間が増えたせいもあるのか、介護している側の方が当事者の方にイライラし、家があまり良くない雰囲気になっておられたようでした。
 緊急事態宣言後に、その当事者の方から「配偶者の態度がなんだか変だ。切ない。」という発言も聞かれました。
 実際、ご本人の認知症の進行もあり、現在は良い形で介護保険のサービスにソフトランディングするように、ケアマネさんと相談をしながらご対応しています。

 私たちは専門知識を持った団体として、さまざまな活動の中で当事者の様子を観察し、その記録を残しています。緊急事態宣言前後の変化も、記録とエビデンスに基づいて分かりました。

最後にメッセージをお願いします

 コロナ禍で外に出なくなってしまったり交流が減ったりしたことで、これまで自立した生活をしてきた高齢者の方も、家の中で困ったことが起きつつあるかもしれないという心配があります。
 そのためには、どこの地域に住んでいても友人どうし電話一本でも掛け合うなど、お互いに気にかけることがとても大切です。
 そして問題があるようでしたら、お近くの行政窓口や兵庫県内にたくさんいる支援者につながることが大事だと思っています。

 「認知症の初期の方はこういうことが難しいのか」「苦手になったことで、こんな大変なことが起きているのか」など、当事者と直接関わることでしか分からない課題はたくさんあります。
 認知症のサインは何年も前から出ていたのに周囲がそれに気づかず、誰もが気づくような症状が出てから受診する方も多いので、お医者さんも初期の初期といった状況はよく分かっていないこともあるかもしれません。

 私たちは団体として、介護保険に至らない初期の方が不安なく楽しく過ごせるようにしてきたいですし、豊かに暮らすことによって何年も重度化しないということを実証し、認知症初期の活動に手をかける人々が増えていったらいいなと思っています。

 認知症の方への支援を中心に活動していますが、法人の目的は、認知症の方が住みやすい地域環境を作ったり、周辺の人を育てたりすることです。最終的には、認知症になっても安心して暮らせる社会であってほしいと思っています。

団体HP https://harimaorangepartner.localinfo.jp/

facebook https://www.facebook.com/harimaorangepartner/