有園博子基金 第7期 選考結果

有園博子基金 ARIZONO HIROKO FUND

第7期(2025年度)助成事業一覧

応募状況

応募件数 採択件数
件数 金額 件数 金額
全体
活動応援コース
組織基盤強化コース
10件
2件
8件
¥6,397,000
¥360,000
¥6,037,000
5件
1件
4件
¥3,408,000
¥160,000
¥3,248,000

採択団体/個人一覧

活動応援コース

団体/個人名 事業名 金額
浜野 千春 表現活動を通じたDV被害後女性の回復支援 ¥160,000

組織基盤強化コース

団体名 事業名 金額
(特活)こどもサポートステーション・たねとしずく 虐待の予防の視点を地域に広げる・支援者を増やす ¥1,000,000
面会交流支援センタ―ピロティ 子どもの利益となる面会交流の事業 ¥248,000
(特活)女性と子ども支援センターウィメンズネット・こうべ 中長期視点に基づく基盤構築のための組織基盤強化事業 ¥1,000,000
(一社)TICC 当事者と支援者をつなぐ地域に根差したトラウマインフォームドケア/コミュニティ事業 ¥1,000,000
合計 ¥3,248,000
組織基盤強化コース+活動応援コース 合計 ¥3,408,000

総評

― この兵庫の地で ―

選考委員長 岩井圭司

有園博子さん(兵庫教育大学教授、臨床心理士。2017年逝去)のご遺志とご遺産を受けて設立された本基金による助成も、早7年目となった。数え歳7つである。今回も、応募してくださった団体、個人、そしてひょうごコミュニティ財団の運営スタッフの熱意とご尽力に感謝したい。
この間、応募団体、その中でもとくにこれまでに複数年度にわたって助成を受けられた団体において、アクティビティの向上がはっきりとみられたのは、わたしたち企画委員・選考委員の最も誇りとするところである。(同時に、自分自身の向上がそれに追いついていないように感じられることには忸怩たるものがある。)

さて、世にある多くの助成金は、助成対象を特定(限定)している。本基金の助成も「地域限定」かつ「テーマ限定」となっている。ここでは「地域限定」について述べておきたい。
有園基金では、助成対象を「兵庫県内」における活動に限定している。やたらグローバリゼーションが喧伝される今日にあって本基金は、自らを日本国内の、それも全国区ならぬ「兵庫地方区」的な、敢えてローカルな存在と規定しているのである。このことに、どうかご留意いただきたい。これはもちろん有園博子先生のご遺志に基づくものである。有園先生のお考えを人口に膾炙した箴言で言うならば、「一隅を照らす」と「隗より始めよ」を併せたようなものではなかったか、と筆者は考えている。
その観点からすると、今回助成が決まった団体・個人はいずれも、これまで兵庫県の各地で、さまざまな意味で“地元”に根ざして実践を積み重ねてきた人たちである。まさに、本基金の趣旨に添った助成対象を得られたと言えよう。

そのうえで欲を言うならば、今回助成対象となった方々には、実際の活動にあたってそれぞれの地域の特性を活かした取り組みができたり、あるいは逆にそういった地域特性に関連した困難さを感じた場合には、そのことを今後ぜひ言語化していただきたいのである。そしてそれに依拠して、今後の活動を企画設計し、来年度以降本基金に応募したり、他の助成に応募したりしていただきたい。今回の助成申請書を見ていても、DV、虐待、性暴力、さらには事故災害等の被害者支援では、もっぱら被害内容や被害者属性に基づいた支援が計画され実行されており、被害者が暮らす地域の特性に対する顧慮はまだまだ少ないように思われる。
もちろん、日本全国さらには世界中で通用するようなユニバーサルな被害者支援を追求することは十分に意義のあることなのだが、今後はより地域特性に根ざした被害者支援の方法論の構築が求められているように思われる。このことは、“ローカルな助成”を行っている本基金の使命であろう。

選評:組織基盤強化コース

団体名 :(特活)こどもサポートステーション・たねとしずく
事業名 :虐待の予防の視点を地域に広げる・支援者を増やす

申請団体は、①アウトリーチ事業、②居場所事業、③支援者支援事業の3事業を柱に、一貫した活動を展開している。近年では、児童相談所や西宮市・その他支援団体からの依頼を受けて訪問支援やライブラリーへの来所など、活動が多様に広まっている。その中で、家庭内虐待の発生の予防のために活動内容を深化させようと本基金に申請された。
今回の事業提案では「スタッフの教育とスーパーバイズ」および「虐待予防に対する地域拠点としてのアプローチの研究」の二つを提案された。居場所事業とアウトリーチ事業の二つが連携する中で、居場所支援に関わるスタッフにもスーパーバイズの必要性が増えてきた。また、アウトリーチが虐待予防に繋がっていることを客観的に評価するため、学識経験者の協力を得て実態調査をした上で、その内容をシンポジウムの場で発表し、地域社会に還元することを掲げられている。
本基金を活用し、スタッフのエンパワメントおよび地域社会への啓発活動が充実されることを願っている。


団体名 :面会交流支援センターピロティ
事業名 :子どもの利益となる面会交流等の支援事業

申請団体は、2018年5月に設立された面会交流支援機関であり、葛藤のある家族を対象に確実な支援を積み重ねてこられた。小規模団体であるため、支援実績数は多くないものの、専門性を生かし、「子供の視点・利益」を大切にした支援を実施されている。また、関連団体との交流等など支援の質を高めるための努力を積み重ねられ、2024年6月には、面会交流支援全国協会の認証も受けられた。
今回の申請は、主に、スタッフ増員に伴う初任者研修や支援ケース増加に伴う会場費などの助成を求めるものである。
社会的には昨年の民法改正により離婚後に共同親権を選択できるようになるなど離婚後の親子関係についての関心が高まり、面会交流支援の需要は増加しており、活動の広がりが予測される社会情勢にあるため、スタッフ増員はニーズに応えるためにも必要なものと認められる。
一方で、現場においては、両親の不仲が面会実施に際して子どもに与える影響は少なくなく、支援団体の専門性が問われるものとなっており、支援の質の維持・向上は欠かせない課題である。
申請団体が規模拡大していく時期にあることや上記のニーズを踏まえれば、今回の申請は当基金の趣旨にも合致し、助成することが意義あるものと評価した。最も、スタッフ増加に伴う経費の増加に比した収入の見通しなどについても意識し、安定した質の高い支援を続けられるような基盤づくりにも配慮した活動を期待する。


団体名 :(認定特活)女性と子ども支援センターウィメンズネット・こうべ
事業名 :中長期視点に基づく基盤構築のための組織基盤強化事業

申請団体は、貴重な活動を長年にわたり実施しているだけでなく、近年、事業拡大して非常に大きな事業を手掛けるようになっている。また、非営利組織にとって営利組織よりも難しいとされる「事業継承」にも取り組もうとしているところが高く評価された。

2025年度は「各支援事業のクレドの作成を主軸に、運営・経営層や実務メンバーで組織基盤強化していきたい」とのことであるが、事業拡大に伴い人員も急増するなかで、ビジョンなど全体での意識共有が重要なのはもちろんのこと、それらが情緒的な作業に陥らず、具体的かつ実際的なマネジメントやガバナンスに結びついていくことが肝要ではないだろうか。

例えば、本事業ではファシリテーターを招きクレド作成を目標に話しあいをし、別の助成制度も使って組織基盤整備を進めていくとのことだが、本助成制度の事業においても、実務レベルでの組織体制の見直し、連絡指示命令系統を含んだ具体的な人員配置、日・週・月単位でのシフト体制の明確化などに、スピード感をもって落とし込んでいくことが必要だと考える。それらに取り組みつつ、属人的では無い事業遂行で、今後も貴重な事業を継続していかれることに期待している。


団体名 :(一社)TICC
事業名 :>当事者と支援者をつなぐ地域に根差したトラウマインフォームドケア/コミュニティ事業

トラウマインフォームドケア(以下TIC)は、現代社会における社会的要請の高い活動である。しかし一方で、認知度はまだ低く、専門家の養成が求められるテーマでもある。
申請団体は、以下の3点を目的として活動を展開している団体である。
①虐待や犯罪などによる被害でトラウマ(こころのケガ)を負った人々に対する支援
②トラウマ(こころのケガ)を理解して対応にあたるサポーターやコーディネーターの養成
③被害者等が直面するか課題について調査・研究・広報・啓発・社会提言などを行い、被害からの真の回復への手助け
TICに関する高い専門性を有する支援者で構成されているのは当団体の強みでもあるが、市民に普及し、横の展開をどのように手掛けていくかが課題であるとの認識のもと、今回は、「当事者と支援者をつなぐ地域に根差したトラウマインフォームドケア」をテーマに組織基盤強化の申請がなされた。専門家集団の強みを活かしてTICトレーナーを養成し、TICを市民に伝える人を育成するという活動内容、そして「トラウマインフォームドな兵庫」を目指すとする視点が評価され採択となった。
申請団体には、TICを全国に普及することへの期待とともに、兵庫県の中にある課題の解決に向けた活動や支援者の支援にも期待したい。


※各団体の選評は組織基盤強化コースのみ執筆しています。