採択団体訪問: 音遊びの会

「音遊びの会」とは知的な障害のある人、実験的な即興音楽の分野で活躍する音楽家、ダンサー、音楽療法家らからなる音楽プロジェクトです。
2025年8月23日に開催されました「音遊びの会」のイベント「音遊びの会といとうせいこう『こえとうた』」に伺いました。開催場所は、神戸市垂水区にあります旧グッゲンハイム邸です。
イベント開催前と終了後のお忙しい時間を少し頂戴し、「音遊びの会」代表の飯山ゆいさんにお話を伺いました。
今回のイベントは、「こえとうた」をテーマに、作家でクリエーターのいとうせいこうさんをゲストに迎えてのステージでした。

ーー今回は、結成20周年のイベントとのことですが、音遊びの会の設立の経緯についてなどをお聞かせください。

私の大学の先輩にあたる、沼田里衣さんという方が発起人の「音遊びプロジェクト」が前身です。彼女は、音楽療法の現場の中で出会った知的な障害のある人の音楽表現を、もっと広く社会に広めたいという思いをもちました。そして、知的な障害のある人と、即興音楽の分野で活動するミュージシャンとが協働で即興的に音楽を試す場を作れば、そこから新たな文化が開かれて行くのではないか、と考えて、音遊びの会の活動に至りました。

本日も出演する障害のあるメンバーは設立当初からのメンバーも多く、当時はほとんどが子ども・小学生。一番小さい子供で5歳でしたね。それが今や30代が中心となっています。
新しいメンバーにも入ってもらいたいとの思いはありますが、みんな舞台に出ることを楽しみにしているので、決められたステージの時間で自由に演奏してもらうにはなかなかメンバーを増やせないのが現実です。
同じような活動をしたいので参考にしたいと言ってくれる方もおられますが、20年かけてやってきたことですから、私たちならではの形です。それぞれの場所で「〇〇ならでは」の形が拡がればと思います。

ーー純粋に「今楽しめる」みたいというか、ミュージシャングループみたいなイメージでの活動でしょうか?

そうですね、始めはサポートも必要だったメンバーも年齢と経験と重ねて、だんだんそうなってきたと思います。いろいろな人が集まっていますが、それぞれがやりたいことができる、自由に表現ができるところにしたいと思っています。

ーー今回、いとうせいこうさんとコラボすることになったきっかけは?

いとうさんは4年前にある舞台で共演して以来、会のメンバーなんです。関東にお住まいということでなかなか機会がなかったのですが、今回のテーマ「こえ」といえばいとうさんだなということで声をかけさせて頂いたら、快諾頂き、コラボに至りました。

ーー今回のイベントですが、事前打ち合わせにもお邪魔させていただきました。そこでは、出演の順番や、誰が何を行うかなどを書いた付箋を、大きな模造紙に順番に貼っていくという方法で決めておられていましたね。

いつもいろんな方法でやっていて、最近は事前に演目を決めずに、舞台上で「さあ、今度は誰です?」っていう風に進行したり、進行係さえ決めずに自然派生的に進んでいくことが多いです。
今日は付箋と模造紙を用意して準備はしましたが、実際にはこれとは全く違ったものになりました。いつものことですが、想定以上の変更でした(笑)。
特に、今回はいとうさんと「こえとうた」というテーマがあったので、事前にそのテーマでやりたいことをメンバーから募りました。そのやりたいことを全てやろうということで順番を考えたんですけど、結局みんなが同じ理解をしている訳ではないし、その場で湧き上がってきたやりたいことも活かすので、収拾がつかなくなることもあります。

ーー初めて体験するような場というか、だんだん空気が出来上がっていって一つになっていくような感じでしたね。毎回違う、同じにはならないという。でも意外と時間通りも終わっていますよね

大人数なので、出番や編成の規模や内容のバランスが悪くならないように、お互いに声をかけ合ったりしています。ですが、無理に止めたりはせず、障害のあるメンバーも障害のないメンバーも一緒に演奏する中で、楽しみ、みんなが満足したものができあがっていると思います。

ーーところで、共感寄付にも参加していただいていますが、参加していて如何でしょう?

共感寄付には10年前から支援をいただいています。他の団体を見てると、例えば食べるものがないといった本当に切実なものもあるので、それに対して私たちは楽しむことに対する寄付をお願いしていて、少し印象が違うかもしれません。金額として音遊びの会への共感度はまだささやかなものなので、もっと活動を知っていただく努力をしなければいけないなと感じています。

ーーしかし、人々が何に対して共感するかはそれぞれ違いますので、色々な選択肢があってよいのではないでしょうか

そうですね。音遊びの会では、互いの音や身体表現を丸ごと「共有」することを大切にしています。お互いの表現をそのまま受け止め、楽しむ。「共有」することで色々な共感が生まれますね。舞台を観ることや自ら活動に参加すると同じように、共感寄付を通して活動を知っていただくことで生まれる共感もまた、活動を広げてくれるように思います。それが寄付に繋がってくれればうれしいです。

ーー音遊びの会のこれからの展望などがあれば教えて下さい

コロナ禍を通して、人が生きる中で「表現する場」は不可欠なものだと感じました。活動開始から20年、みんなが年を取って人生のステージが変わり、生活の状況が変わりながら、それでも参加を続けているわけで、そこにこの集まり、活動の必要性はあるんですよね。なので、まずはこの場所を続けていくというのが一番の想いです。

ありがとうございました。

このイベントを拝見して、音楽とは何か、表現とは何かを改めて考えるきっかけとなりました。音遊びの会は今後もさまざまなイベントを控えています。ご興味のある方は是非参加してみてください!
このイベントのもう一人の主役である、いとうせいこうさんにも少しお話を伺いました。
いとうせいこうさんと音遊び会は、4年前、2021年KYOTO EXPERIMENT|京都国際舞台芸術祭での『音、京都、おっとっと、せいこうと』で共演を果たし、その時、いとうさんは音遊びの会のメンバーとなり、今回、念願のがっつり共演となりました。

ーー今回、再びの音遊びの会との共演、如何でしたか?

緊張しましたが、非常に楽しかったです。
兎も角、同じという事がない、毎回が唯一無二のステージになります。事前の打ち合わせとも全く違うものになるので、こちらも神経を研ぎ澄まし臨まないと付いていけない、正に真剣勝負なんです。
かと言って、頑張り過ぎて、自分が前に出過ぎてもよくない、いいセッションにならないんです。引き過ぎたら、引き過ぎたで、いいものが生まれない。

ーーメンバーの音に合わせて、詩を朗読というか、こえを発せられますが、あれも即興ですか?

そうですね。常に考えているので、ここ(タブレットを指して)には多くのフレーズが入っていますが、その場の瞬時の判断で語っています。みんなの音に触発されて出てくるという感じでしょうか?
メンバーの音は、常に想像を超えてくる、だから私自身が大いに学びになる、今後も続けていきたいです。
また、頑張ります!いやいや、がんばらずに、がんばります!

ありがとうございました!お疲れ様でした!

「音遊びの会」